幼き日々は蛍の光のように儚い灯火
失敗をしたのだ、と父に聞いた。
別当に怒られたのだと。
詳しいことは分からなかった。
けれどすぐに、行かなければ、と思った。
大きな木の上に、彼はいた。
根元から仰いでみるが、枝葉に隠されていまいち様子が見えない。
かろうじてうつむいているのだけは確認できた。
登るしかない。
そう思い立ち、体重に耐えられそうな太い枝に手をかける。
腕の力でよじ上り、また先を目指す。
烏になるために鍛えられている体では、難しいことではなかった。
程なくして少年のいる高さまで来た。
声をかけることすらはばかられる、重い空気。
「若さま」
は気にせず敬称を呼んだ。
行動しなければ、何も変わらない。
もっと近づこうと前に出る。
「来るな」
その一言に足がすくむ。
痛々しいほど声は震えていた。
今の彼は、すべてを拒絶している。
まるで野アザミのようだ。
手折ろうとする者の手に刺さる、とげ。
自らの身を外敵から守るために内に宿した鋭い牙。
けれどそんな花でも、摘むことはできるのだ。
葉にふれないようにすれば、茎はやわらかい産毛におおわれている。
だから、少女は手を伸ばす。
「なっ!」
びくっと体を揺らす彼に近づいて、頭をなでる。
そっと、傷つけないように。
「なんだよ……」
困り顔の少年ににっこりと笑いかける。
大丈夫、と。
すると彼はやっと表情をゆるめた。
「別にオレは、落ち込んでなんかないからな」
そう言っての手をつかむ。
「分かってます!」
明るく笑って告げる。
落ち込んでいたのではなく、己を責めていたのだろう。
何がいけなかったのか振り返り、間違いを起こしたと気づいて。
少女が来るまで一人で、苦しんでいたのだ。
は少年の心には敏感だった。
「ありがとな」
笑顔で礼を言われる。
見たかった顔だ。
元気になって良かった。
少女も安堵と嬉しさから満面の笑みを浮かべた。
笑い合っていた、平穏な日々。
何もかもが輝いていて、幸せだった。
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子どもの日に子どもの話を♪
まだ「若さま」と呼んでいたころのお話です。
短い……。
好きな時代でもあるので、また書きたいですね。
(2007/5/5)