動揺




 来年を心待ちにしているらしいを見て、肝心なことを言っていなかったと思い出す。
 自分の生まれた日の一月ほど前に、彼女も『誕生日』を迎える。
 だから、と幸せそうに茶菓子を頬張っていた少女に向かって笑いかけた。
「お前の誕生日も祝ってやるよ」
 当然のようにヒノエは言うが、
「ええっ!?
 でも、何日だか知らないですよ?」
 予想に反して困惑した声が返ってくる。
 あまり嬉しくなさそうだ。
 てっきり笑顔で礼を言われると思っていた少年は肩透かしをくらった気分になった。
「雁堆にでも訊けば分かるさ。
 あいつもけっこう子煩悩だしな」
 それでも顔には出さずにいられたのは、日々の努力のたまものか。
 もっともらしいことを口にすると少女はさらに動揺する。
「で、でも、祝うってどうやってですか?」
 目を泳がせながら、たいして疑問に思っていなさそうな質問をした。
 どうにも様子がおかしい。
「盛大に宴でも開いてやろうか」
 にやりと笑んで、冗談のつもりで提案する。
 驚きに目を見開いていくを不審に感じた。
 まるでヒノエに祝ってほしくないとでも考えているようではないか。
「そんなの恐れ多いですよ!」
 想像通りの返答だった。
 この少女が遠慮深いのは幼いころから変わらない。
「だったら少人数で祝えばいいだろ」
 それなら問題ないだろう? とをじっと見つめた。
 八の字になっている眉。胸の前でせわしなく動いている指。
 琥珀色の瞳は明後日の方向に逸らされてるので、視線は絡まない。
 何をそんなに渋っているのだろう。

「嫌なのか?」
 動向からするとそうとしか取れなくて、顔をしかめて問いかける。
「そ、その……私、烏ですし」
「関係ない」
「えっと、ヒノエさまにそこまでしてもらうわけには……」
「気にするな」
 殊勝な意見を一言でばっさりと切っていく。
 少女の気にしているものがどうしても分からない。
「もしかして、家族と過ごしたいのか?」
 思いついた可能性を訊いてみる。
 家族思いのならあり得る話だ。
「そうじゃないんです、けど」
 どうやら違うらしい。
「じゃあ何だよ」
 自分の出した声がかなり不機嫌に響いて、驚く。
 大切な人に祝ってほしいように、大切な人を祝いたい。
 当たり前の感情だと思っていた。
 けれど目の前の少女は明らかに困っていて。
 どうすればいいんだ、と悩みは消えることはない。
 だんだんと下降していく気持ちを止めることはできないらしい。

 うつむいている少女の顔を覗きこむ。
 熟れた果実のように真っ赤に染まっていた。
「……祝われるって、その……。は、恥ずかしいです」
 慣れてなくって、と小声で呟く。
 なるほどそういうことか、とやっと納得する。
 つまり、ヒノエに祝われるということが気恥ずかしかったのだ。
 命令し慣れている彼は部下に頼む機会が多かった。
 部下たちはそれを達成することにやりがいを感じ、誉められることに喜びを感じる。
 ヒノエの方から何かをする必要はなかった。
 この少女といるときは、守りたいと真剣に考えることが増えた。
 自分から進んで物事に取り組むようになっていった。
 贈り物をしたり、何かと気にかける機会も多い。
 それでもまだ慣れないと言う。
 自分に向けられる好意を素直に受け入れることができない、と。

「やっぱ来年は絶対に祝うかんな」
 腕を組んで不敵に笑む。
「そ、そんなぁ〜!」
 は情けない声を出して異論を唱えた。
 それらはすべて綺麗に無視する。
 少しづつ、慣らしていくしかないのだ。
 いつか自然に優しさを受け止めることができるように。

「覚悟しとけよ?」
「はい……」
 がっくりとうなだれる少女の頭を優しくなでる。
 くすぐったそうに目を細めるのを見て、ヒノエは満足げに笑った。








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 以上、「ヒノエ誕生日記念フリー夢小説」でした。
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 動揺バージョン。ちょっと恥ずかしがり屋ヒロイン。
 性格設定が違うって? そんなことは気にしちゃダメです。
 「慣らしていく」がむずがゆく感じたのは内緒です。
(2007/4/1)