拍手ありがとう!
「ヒノエさま! 拍手ですよ拍手!!」
少女は軽やかに彼の前まで駆けてくる。
対するヒノエは仏頂面。
「ああ、良かったな」
「って、なんでそんな顔してるんですか!?
お礼言わないとですよ〜!」
必死に説得を試みる。
「ここを見てる奴は、もう押したってことだろ?
ならもういいじゃんか」
「お礼は大切です!」
「なら、お前が言えばすむことだろ」
「私も言いますけど、ヒノエさまも一緒じゃないと喜んでもらえません〜!」
「言ってオレに得なことってあるか?」
「…………譲さんの作った料理、分けます」
苦肉の策、最近の楽しみでもあるものでどうだろう。
「それでいいか」
しぶしぶといった感じで頷いた。
『拍手、ありがとうごさいました!!』
応援、嬉しいな♪
「あれ? また押してくれちゃったんですか!?
ひ、ひひひヒノエさま〜!!!」
「うっせえ!」
近くにいるにも関わらず大声を上げる少女に、ヒノエは怒鳴る。
けれど一向にやむ気配はなかった。
「だ、だって、嬉しすぎです!!」
胸の前で手を組んで、感激のあまり涙目になりながら言う。
「見てりゃ分かる」
「ヒノエさまは応援されて嬉しくないんですか〜!?」
「嬉しいな。……で?」
「その嬉しさを表に出しましょうよ!
嬉しい、嬉しいって!!」
手を大きく振る動作をする少女を見て、ヒノエはため息をはく。
「お前見てると、アホらしくてしたくなくなるんだよ」
「わ、私のせいですか!?
すみませんでした!!」
「……まあいい。
嬉しい気持ちを、伝えればいいんだな?」
「はい♪」
少女は満面の笑みを浮かべる。
『応援、とっても嬉しいです♪』
いつも感謝してるよ☆
「う、うわ……えーっと、ヒノエさま〜!
嬉しすぎてどう反応すればいいか分かんなくなっちゃいました〜」
ヒノエの方を仰ぎ見て、少女は助けを求める。
「馬鹿だな。そのままが一番だろ」
うんざりとした様子で答える。
「そ、そうですよね!
そのままそのまま、そのまま……って、どんなでしたっけ?」
「いつもみたく、はしゃいでればいいじゃねえか」
「そうですね! やってみます!!」
少女は一つ深呼吸をして、にぱっと笑う。
「えへへ♪ ありがとうございます!!
いつもいつも、感謝してもしきれないくらいです!!」
「こいつだけじゃなんだし、オレからも」
『いつも、感謝してます☆』
あなたがいるから、頑張れるんだ…
「ひゃ〜!! ヒノエさま!!!」
ヒノエに向き直ると、彼はわけ知り顔で少女を見下ろす。
「分かってる。
また来たんだろ?」
「ヒノエさまは落ち着いてますね?」
「お前みたいにいちいち騒いでられるか」
そう言ってまた、ため息をつく。
少女が数え始めて九つ目のため息だった。
「今度はなんて言えばいいんでしょう?」
あごに人差し指を当てて考える。
何と言ったら喜んでもらえるのだろう?
「思ってることを全部言ってけよ」
「そうですね〜、う〜んと……。
本当に本当にありがとうございます!
私たちがこうやって幸せでいられるのも、ひとえに応援してくださる方々がいるおかげです♪
そんな方たちがいるから、私は頑張れるんです!!」
少女の顔が喜びで彩られる。
「ってことで、ありがとな」
ヒノエも口はしを上げて笑んだ。
『応援してくださる方々がいるから、頑張れるんです……』
これからもよろしくね?
「へ? ど、どうしましょうヒノエさま〜!!」
ヒノエの裾をつかんで喜びを表す。
「ああ?」
「まままたです!!!」
「素直に喜んどけばいいだろ」
ため息をついて答える。
「もうどんな風に喜んだらいいか、分かりません!!」
「んー、そうだな……。
『これからもよろしく』ってのはどうだ?」
嫌がっているように見えて助言をくれる主に、少女は笑みをこぼす。
「さすがヒノエさまです!
早速二人で言いましょう♪」
「オレもかよ」
「ヒノエさま、嫌なんですか?
だったらしょうがないですけど、私だけで」
少女はいかにも寂しそうにうつむく。
頭上で息をはく音が聞こえる。
「分かった。
譲の料理もあるしな」
「ヒノエさまも一緒に言ってくれるんですか?
わ〜、嬉しいです!!」
幸せそうに少女は破顔する。
「……じゃ、行くぞ」
『これからも、よろしくお願いいたしますね?』
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