始まりました





「いきなり学校にある荷物持ってきてくれだなんて、一体いつの間に家に帰ってたの!?」
 の中学校にかかってきた兄からの電話は不可思議な内容で、職員室と言うことも忘れて少女は思わず怒鳴ってしまった。
 ハッと我に返った時にはもう先生たちの注目を浴びていて、恥ずかしさに身を縮こませる。

「い、家に帰ったら詳しく説明してもらうからね!」
 早口でまくし立て、制止の声も聞かずに電話を切る。
 たかたかと小走りで出入り口まで行き、「失礼しました!」と威勢良く職員室を後にした。
 嵐が去った職員室にいた人々は、一拍ののち何事もなかったかのようにそれぞれの仕事に戻っていった。


 ******


 教室に戻ってきたは夕焼けに染められた室内で溜め息をついた。
 放課後の教室は静かで、予想以上に大きな音になったことに驚き、それから自分の机にうなだれる。
「まったく、何なんだか……」
 先ほどの将臣の言葉を思い出して独りごちる。
『今家にいるから、俺と譲と望美の分の荷物を高校から持って帰ってきてくれ』
 それだけでは何が何だか分からない。
 上の兄の説明はいつも大雑把すぎて意味が取れないのだ。

 こうしてはいられない。
 は席を立ち、帰る用意をし始めた。
 早く高校に向かわなくては。
 ぐずぐずしていては夜になってしまうかもしれない。
 いつも一緒に帰っていた友だちは、先生から電話がかかってきたと聞いた時に別れを告げていた。
 後で謝っておかなければと考えながらカバンを肩に掛け、教室を出る。
 両親が旅行に行くと言っていたから、今夜の夕飯の買い出しも自分がしなければならないのに。
 幸い下の兄が調理を受け持ってくれるだろうから、味の心配はないのだが。
「将臣お兄ちゃんは大味だからなぁ」
 そう言って、一人思い出し笑いをする。
 塩を入れすぎたオムレツは記憶に新しい。

「そういえば……どうして望美ちゃんのも、なんだろう?」
 姉のように慕っている隣の家の望美を思い浮かべる。
 三人して学校を早退したのだろうか?
 ならば荷物が学校にあるのはなぜ?
「それに……なんか後ろ、騒がしかった」
 電話口でも分かるほどの複数の声。
 賑やかと言うよりは『騒がしい』と言った感じだった。
 友人でも呼んでいたのだろうか?
 分からないことばかりだった。

「ま、家に帰れば分かるよね」
 そう楽観的に思い直して、は校門を出た。



 空は茜色に染まり、優しく少女を包み込んでいた。








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 ラビリンスで九郎連載夢、始めちゃいましたv
 と言ってもまだ肝心のお相手は出てきていませんが……。
 頑張っていきたいと思います!
(2008/6/11)