いつか果たされる約束
日常となった、京邸への出入り。
珍しく朔も白龍もいなく、望美と二人で遊んでいたときのこと。
「の誕生日っていつ?」
唐突な問いだった。
瞳をきらきらと輝かせて身を乗り出してくる。
何の前振りもなく話題が飛ぶのにも、最近は慣れてきていた。
「たん、じょう……び、ですか?」
理解できずに首をかしげる。
話が長くなりそうだと判断して、持っていた碁石を小箱にそっと戻した。
「生まれた日のこと!
ケーキ食べたりプレゼントもらったりするの♪」
嬉しそうに望美は語る。
彼女には悪いけれど、まったく意味が通じなかった。
ただ疑問が増えていく一方だ。
「それでは分かりませんよ、先輩」
助け船とばかりに声が届く。
振り返ると、譲が苦笑していた。
「じゃあ、譲くんならちゃんと説明できるよね」
断るとは始めから思っていない口振りで頼む。
彼はそんな望美を愛しげに見つめた後、に向き直った。
「誕生日というのは、生まれた日を祝う行事だ。
誕生する日と書いて誕生日。
おいしいものを食べたり、贈り物をもらったりするな」
一句一句、丁寧に発音する。
今度は理解することができた。
「それは素敵な日ですね!
ぜひヒノ……な、何でもないです」
うっかりこぼしそうになった主の名を、あわてて手を振ってごまかす。
「ん? でね、の誕生日は?」
さほど興味のなさそうな声をもらし、すぐに尋ねてくる。
安堵から、気づかれぬほど小さく息をはいた。
「仲春です。
今年は終わってますね」
正確な日付は知らないが、それだけは確かだ。
「そっか〜、残念」
明らかに肩を落とす望美。
祝いたかったのだと感じられて、嬉しくなった。
そう思ってくれる人がいるのはとても気持ちがいい。
「来年がありますよ」
「そうだね!」
豪華なパーティー開くからね、と意気込む彼女に、は曖昧な笑みを返した。
来年はあるのだろうか。
この偽りの関係がいつまで続くのか、見当もつかない。
だから、どうしても返事はできなかったのだ。
******
同日の夕刻、鳴の隠れ家で。
お茶を入れて一息ついていたときに、その話題を出した。
「ヒノエさまの誕生日、もう過ぎちゃってるんですね」
少年が生まれたのは晩春。
今は初夏だ。
残念、とうなだれる。
もっと早く聞いていれば良かった、というのは無理な話だけれど。
「望美の世界のヤツか?
次があるだろ」
簡単に放たれた言葉にどんなに救われたか、彼は知らないのだろう。
「そうですね!
来年は絶対に祝います!!」
少女は笑顔で言うが、
「それ、嘘か?」
ヒノエは口はしを上げて訊いてくる。
意味が分からずに首をかしげていると、彼は声に出して笑った。
「卯月の一日は嘘をついてもいい決まりなんだってよ。
ちょうど同じ日だかんな」
いたずらっ子のような顔をして、種明かしをする。
望美たちの世界には本当にいろいろな行事があるのだと、未知に対する関心がわいてくる。
嘘をついても許される日。
ふと思いつき、は口を開いた。
「だったら、やり……ませんって言おうとしたんですが、やっぱりお祝いしたいです。
なので嘘はつけません」
あえなく失敗してしまったが、それでいいような気がした。
祝いたい気持ちは何よりも強いのだ。
『誕生日』と聞いて、初めに思いついたのがヒノエだった。
幸福をくれる彼に、少しでも恩返しがしたい。
いつも望んでいること。
だから、どうしても祝いたかった。
「期待しないで待ってるさ」
茶を口に運んで笑む。
和んだ目元が、嬉しいのだと語っていて。
「がんばりますね!」
来年が、楽しみだ。と思えた。
約束が増えるたびに幸せを感じる。
優しい主とのつながりは、とても心地良かった。
温かな空気に包まれて。
ずっと、一緒に『誕生日』を祝えるような。
そんな平穏が続けばいいと、ただただ願うのだった。
不安定な日々の中で。
必死に幸を探し、求めていた。
ヒノエがの誕生日も祝うと言ったとき、少女の反応は?
素直に喜ぶ なぜか困る
続きます。
初の選択式ですが、相手が変わったりはしません。
……祝ってませんね(汗)
言い訳としましては、誕生日ネタは神子さまが来た後じゃないとできないので、本編の時間軸的に……。
普通に幸せな話を書けばいいじゃんってのもありますが、ね(遠い目)
(2007/4/1)