相見えました





 がちゃり、と家の扉を開くまでがやけに長く感じた。
 そして迎え入れてくれたのは――。

「あ、おっかえり〜♪」
「おかえりなさい、譲殿」
「遅かったですね。
 何かありましたか?」
「おかえりなさい!
 あ、ちゃんも一緒だったんだ!?」
「待ちくたびれたぞ譲〜。
 早く飯ぃー」
 兄と望美と、訳の分からない格好をした人たちだった。


「な、何この人たち!?」
 は玄関の前で立ちすくんでしまった。
 八人に一気に出迎えられれば、しかもそのうちの六人が見知らぬ人間なら、これくらい驚くのも仕方がないだろう。
「居候、だな」
 将臣がいけしゃあしゃあと言う。
「……こんなにいるなんて、聞いてない」
 確かにヒノエと敦盛のことは譲から聞いてはいた。
 だが、この人数はさすがに予想外だ。
 電話口での騒がしさはこれか、と答えが分かっても嬉しくはなかった。
「しかも何か変な格好してるし……コスプレ?」
 そう、重要なところはそこだ。
 将臣と望美以外は皆、着物を改造したような格好をしているのだ。
 中には鎧をつけている者やマントを羽織っている者もいた。
 が怪訝そうに訊くと、黒い布を全身にまとった青年が意味深に笑む。

「やはり君には“見える”んですね」
「おっかしいなぁ、そんな簡単な幻影じゃないんだけどな〜」
 オールバックの男性が頭を掻きながら苦笑した。
 には何のことだかまったく分からない。
「兄上のことだから失敗でもしたのではないかしら?」
 髪の短い上品な女性が辛辣に言い放つ。
 そんなはずないよ〜、と男は力なく答えた。
「え、えと……その」
 話に混じることもできずに、けれど無視することもできなくては口ごもる。
 何か言った方がいいのか、何を言うべきなのか。
 少女はただ困惑するばかりだ。

「そういうことじゃないんだろ? 弁慶」
 ぽん、とヒノエの手がの肩に乗る。
 支えるようなしっかりとした手に不覚にも安心してしまった。
 弁慶という、またも見知った歴史的人物と同じ名を持つ青年は頷く。

「ええ、何しろ彼女は星の姫ですから」

 彼の言葉に、全員の視線が一斉に少女に向いた。
 その迫力に思わず後退りそうになるを守るように、ヒノエの手にかすかに力がこもる。
 それでも怖いものは、怖い。
 特に、橙に近い癖の強い髪をポニーテールにした青年の眼光が。
 蛇に睨まれた蛙のような心地だ。

「……にも、不思議な力があるということですか?」
 譲が真剣味を帯びた声で尋ねる。
「そういえばちゃんの感って良く当たったよね。
 譲くんのもだけど」
「星の一族の血、なのだろう」
 望美の呟きに金髪の長身の男性が深く頷いた。
 『星の姫』? 『星の一族』?
 少女には分からない単語ばかりが並ぶ。
 いつの間にか帰ってきていた三人。急にできた大勢の居候人。皆のおかしな格好に言動。
 もう頭がパンクしそうだった。

「うん、も神子を助ける力を持っているよ」
 輝く白銀の長髪をなびかせながら青年が微笑んで告げる。
 何とも不思議な雰囲気を持つ人だ。
 むしろ本当に人なのだろうか? と疑いたくなるくらい清浄な空気を生じていた。
 神様だ、と言われたら納得してしまいそうだ。
「そうか、……やはり」
 敦盛が青年の言葉に我が意を得た、とばかりに相づちを打つ。
 他の者も驚いていたり感心していたり、様々だ。
「な、なんか、いきなり言われても意味が分かんないんだけど……」
 皆の顔色をうかがいながらは言葉をこぼす。
 譲は心配そうな表情。望美は興味深々といった顔。ヒノエは安心させるような笑み。敦盛は気遣うような顔。
 何を考えているのか分からないような笑顔の人や、無表情の人もいた。
 例のポニーテールは相変わらず仏頂面で怖い。


「気にすんなよ。
 どうせこっちの世界じゃそんな力、使い道がねぇだろ」
 将臣のあっけらかんとした言葉に張り詰めていた緊張の糸がぷつんと切れた。
「まあ、それもそうだな」
「ってことで、この話はこれで終わり。
 それよりもさっさと説明しないとだろ?」
 譲にヒノエが続き、話を元に戻す。
 そう、はまだ何も説明を受けていないのだ。
 今日一日にあった、不可思議な数々のことについて。
 ヒノエが少女の肩を押した拍子で、皆の前へと一歩踏み出す。
 ギクシャクしながらもそのまま譲と将臣と望美の元に足を進めた。

「ああ、そうだ。
 兄さん、に何も説明してなかっただろう」
「説明する前に切っちまわれたんだから仕方ねぇだろ?」
 譲の問い詰めるような言葉に将臣は反論する。
「そりゃあ、あんな言い方したって分かるはずないもん。
 将臣くんの落ち度だね!」
 けれどに甘い二人に通じるはずもなく、望美はあくまで明るく毒をはく。
 彼女に敵う者など結局、どこにもいないのだ。

「あー、まあ、とにかく」
 こほん、と将臣がわざとらしく咳払いをする。
「ちっと長くなっけど、話さないとなんねぇことがあるんだ」
「あのね、ちゃん。
 私たち……」



 それから望美たちが語った話は、できすぎた夢物語のようなものだった――。








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 八葉+αとご対面。ヒロインビクビクです。
 初っ端から弁慶が濃ゆいのは、趣味なので仕方がありません。
 お相手役はまだ名前も出てないのにね!
(2008/9/11)